今回は、石じいの基本的なものの見方を左右するきっかけとなった事例を紹介しましょう。
石じいは若い頃、金属材料の開発に携わっておりました。
いくつかの学会にも所属し、研究内容の成果を発表したり、講聴したりしておりました。
ある時、応用磁気学会において、非常に印象または衝撃を受けたことがありました。
発表内容は、ある企業の研究者が世界最強の磁石材料を発明した成果発表でした。
従来の最強磁石サマコバ(Sm-Co)に対し、2倍の磁力を持つネオジ鉄(Nd-Fe)の発明です。
この磁石の発明で、大きく世の中が変化しております。
一例として、磁力が大きくなると同一出力のモーターを非常に小さくできます。
自動車にはどのくらいモーターが搭載されているかご存知ですか?
グレードにも拠りますが、50~150個使用されています。
自動車は燃費を改善するための一つとして軽量化を目指している訳ですが、この磁石の登場で大きく低減されております。
コンピューターにもHDD内にモーターが使用されており、これも軽量化に寄与しています。
このように、強磁力が得られることから小型から大型まであらゆる磁性材料を使用した製品に幅広く応用されております。
さて話を学会に戻します。
一通りの学術発表が終えると、通常は発表内容の技術を主体とした質疑応答に入ります。
しかし、この日は世界的にも有名が磁性材料の大家(東北大教授)が予想外の質問をしてきました。
「世界中の磁性材料研究者があらゆる系の研究をしてNd-Feは理論的に高磁力が得られないはずなのに、何故君だけができたのかね?」というものでした。
結果を疑っているとは思えませんでしたが、悔しさがにじみ出ているような状況でした。
会場は大きなざわめきで包まれ、発表者はもとより司会者も困惑したような雰囲気となりました。
発表者は、従来の系に特殊元素をわずかに添加することで結晶構造を変えたことが功を奏したものでした。
材料開発は、金鉱堀りに似たようなところがありますが、やみくもに掘っても金脈に達することはできません。
また、ある程度目的をもったとしても必ずしも金脈に当たるとはかぎりません。
理論的にあり得ないと信じられていた事にチャレンジしても金脈にあたる可能性は非常に低いわけですから、今回の成果は敬意を表するかぎりでありました。
血の出るような努力、気の遠くなる試作数だったと推測されます。
発表者は技術的な回答をしておりましたが、先生は納得するわけでもなく抽象的な質問の繰り返しで収拾がつきませんでした。
理論・理屈というのは、過去の経験則に則り体系化されたものですが、先生はそれに固執しているが故に納得がいかなかったのでしょう。
近年ノーベル賞を受賞される先生方はいつの時代も既存の経験則を打破してきている訳ですね!
この学会の成果として、磁性大家の先生と同じように従来の理論が正しいという前提条件の考え方を持っていると新しい発明等は得られないのだな、とつくづく感じた次第です。
これは何も高尚な世界だけの話では無く、身近な小さいことでも適応できますよ!
今まで正しいと信じられていたことや言われていたことがほんとに正しいのかと疑問を持つことです。
ある課題に対して、前提条件が全て正しいと考えるのでは無く、必ず基本に立ち返って考える癖をつけるようになりました。
このような考え方も持つことで、真実が見えてきたりして結構役に立ちますよ!
訓練ですがね!
ところで、SmもNdも主要産出国は中国で、Ndに至っては以前Smの副産物で使い道も無く二束三文の価格でした。
そして、この磁石の発明で主役に躍り出たため価格が高騰し、かつ中国の希土類金属の輸出制限の中に入れられたためとんでもなく価格が高騰しました。
しかしながら、日本の技術力は非常に優秀で、原理がわかれば、この金属の使用量を削減、または一部他金属への置換等で中国の思惑通りにはなりませんでした。
目先の利益に翻弄して、自国に有利なことをやってもろくなことはありませんね!
また、都市鉱山という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、携帯電話、テレビ、パソコン、空調等あらゆる電子回路を搭載した機器には少なからず希土類金属が含まれております。
廃却製品からこの金属を取り出し、新規製作品に廻すことも実施し、輸入量削減にも貢献しているのですよ!
廃却電化製品はこの目的があるので、有償で引き取ってもらえますよ!
特に携帯電話は放置していませんか?
蛇足ですが、Nd-Fe磁石(多分低グレードだが磁力は強い)は100円均一店でも販売されています。
熊谷会場のITパスポートおよびトーフルの看板にこの磁石を使い簡単に着脱できるようにしました。強いので多少空間があっても固定ができていますよ!